「私という良い子ちゃん」の存在を消し去りたい その時目の前にAV女優という手段があった【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第12回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめる。「どうか私から目をそらさないでいてほしい・・・」連載第12回。
【「なぜAV女優になったのか?」について】
床に寝っ転がってぼんやりと考え込んでいると、お腹のあたりがずしっと重くなった。私のお腹の上で器用にくるくると二回ほど回って、ここは自分の場所だと言わんばかりに堂々とした態度で座った。私の様子をうかがう素振りを見せるわりに、実際の愛情表現は大胆だなといつも感じている。そのままの姿勢で犬の背中を撫でる。さらさらした毛が私の指をすり抜けていくと、「構ってほしい」と言いたげな表情でお腹から顔の方へと移動してきた。独特の獣臭さが私を包む。ぴっとりと寄り添われた体温が心地よくて、そのまま眠りについてしまった。
ここ数年で今が一番安定した生活を送れている。今までが物凄く荒れていたわけではないが、変に何かに依存しなくても暮らせるようになった。それはそもそもの生活環境が変わったからというよりも、精神的なものの影響が強い気がする。ぼんやりと考え込んでいたことについて、一つ一つの精算がついてきて、身も心も軽くなってきている気がした。やはり、私にとっては何かから逃げるよりも、多少労力がかかっても向き合いなおして、きちんとケリをつける方が向いていたのだと思う。
さて、ここからは私が考えてきたことを一つ一つ話していきたいと思う。
今回は、私の中で最後まで答えが出せなかった「なぜAV女優になったのか」についてだ。今まで数多くのインタビューを受けてきた。必ずと言っていいほど「なんでデビューしたんですか?」という質問をされて、「AVに興味があって、今しかできないと思って応募しました。」なんて当たり障りのないことを答えてきた。これはデビューを決めた理由の中の綺麗な上澄みだけを抽出しているので完全な嘘ではないが、完璧な正解ではない。